当館の開館を記念して始まった「おおしま国際手づくり絵本コンクール」も、今年で28回目を迎えました。国内外から229点の作品が寄せられ、応募者は10代〜80代と、幅広い年齢層の方々が手づくり絵本に親しんでいることがうかがえました。 日常のささいな出来事や自分の経験を取り上げた心温まるほのぼのとしたものから、地域に残る説話をテーマにしてキャラクターをダイナミックに躍動させたものまで、テーマやアイデアは多様ですが、手づくり感を大事にしている本コンクールらしさの表れた作品が多数集まりました。 ご応募いただいた皆様には一層手づくり絵本の追求に励まれ、今後益々このコンクールを活気づけていただけることを願っております。来年もたくさんのご応募をお待ちしています。 審査委員
最優秀賞文部科学大臣賞『 近江の国昔話 俵藤太と大百足 』
はたこうしろう 毎年レベルの高い作品を作られてきた長澤さんですが、今年は文句なしの最高作を見せてくれました。まず大蛇の美しさに引き込まれ、大百足の迫力に驚嘆しました。読者を物語の波に乗せる構成も素晴らしく、培ってきた力を存分に発揮した作品に仕上げました。拍手! 山本孝 題材も、仕掛け絵本にぴったりで大蛇や大百足など仕掛けによって飛び出す様は、迫力満点! 見事に心を奪われてしまった! 藤太と大百足が対峙するシーンは圧巻! 大百足のシーンでは2場面を使って、これでもかと迫ってくる! まさにお腹いっぱい! 大満足の作品! 広田郁世 応募回数17回、他部門を含むと21作品目という絵本館とともに歩んでこられたといえる方の受賞です。バラエティに富んだ日本の美しい千代紙には毎回驚きますが、今回はお話と仕掛けの展開がとてもバランスよく迫力もありました。 立野幸雄 頁を捲ると飛び出す大蛇、大百足、そして、射殺される大百足の姿が圧巻で目を奪われます。周知の昔話ながら、背景の緻密で鮮やかな色彩に黒と白を主とした画像配置で斬新な印象を受け、仕掛け絵本の魅力を余すところなく発揮した迫力ある作品となっています。 金賞富山県知事賞『 たけし かみをきる 』
はたこうしろう 落武者とのやりとりがとにかく笑ってしまいます。終盤では、たけし君のお父さんへの憧れと尊敬の気持ちが見事に話のオチとして描かれていて、泣かされてしまいます。笑いあり感動ありの満足度の高い作品でした。 山本孝 ただの散髪の話かと思いきや、まさかの展開! 笑っていいような、悪いような、これまで味わったことの無い複雑な気持ちに襲われつつも、やっぱり笑ってしまう。何という絵本か! たけしの健気で真っ直ぐなお父さんへの気持ちに思わず胸が熱くなる。 広田郁世 たけしくんの意外な望みに驚かされ、落ち武者の登場から実はお父さんとお揃いになる事を喜ぶ家族愛に嬉しくなりました。文章の配置に工夫が欲しいです。 立野幸雄 ボサボサの頭から落武者の頭髪が連想され、その落武者がスマホから現れ、それを真似て少年が〈落武者刈り?〉にします。奇抜な発想の面白さばかりでなく、少年の〈落武者刈り?〉が父親の頭髪の状態に似ており、そこに少年の父親への愛情がほのぼのと感じられて好感が持てます。 金賞射水市長賞『 森のふたご 海へ行く 』
はたこうしろう 未知の世界を冒険する期待感を、裏切ることなく最後まで描き切りました。とくにペリカンが森の上を飛ぶシーンは浮遊感があり、さらに右の折れを開くと青空が現れてとても美しい情景を作りだしていました。 山本孝 森から空、そして海へと視点が次々に変化して楽しい! それぞれの場面に合った仕掛け作りで、ペリカンの飛ぶシーン、ウツボのシーンなどは「お〜っ! 」と思わず声を上げてしまった! 表紙が弱いのが勿体ない。 広田郁世 レンズをのぞくアイデアは楽しく、新しい発見を期待させるワクワク感があります。うつぼの動きは迫力があり、全体に美しい作りです。 立野幸雄 1頁に幾つもの仕掛けが凝らされ、その頁だけでも様々に想像が湧き上がります。明るく淡い緑、青の色調が幼い頃に抱いた海の中の楽しい世界を思いおこさせ、また、そこにいる魚たちも愛らしく、童心を掻きたてられる心が和む作品です。 銀賞富山県教育委員会賞『 ズボンはどこ? 』
はたこうしろう 母と息子のやりとりがとてもリアルで思わず頷いてしまいます。親としてはイライラさせられるエピソードを愛情とユーモアでくるんだ表現は微笑ましく楽しめる作品になっています。オチの表現を工夫できればもっと評価が高くなったと思います。 山本孝 小学生の子どもを持つ僕としては、思い当たる事が多すぎた。読み進める度に、ムクムク怒りが込み上げる……と同時に「どこも一緒」と共感し、安堵を覚える。こんなにも、今の自分にピッタリな絵本があるだろうか! いつか笑って読める日が来るのだろうか(笑) 広田郁世 どこの家にもあるあるですね。最後のお母さんと俺のお互いを呆れながらも思うオチが笑えます。 立野幸雄 日頃ありそうな光景をユーモアを交えて軽いタッチで描いています。その気取らず、単純に言いたいポイントを素直に描いていることが、かえって印象に残り、思わず微笑が浮かんでくる心安らぐ作品です。 銀賞射水市絵本文化振興財団賞『 ばあちゃんのフライパン 』
はたこうしろう 単純な話なのにページをめくるたびにワクワクさせられるのは、しかけの見せ方の面白さと形の美しさが秀逸だったからです。とくにパスタやポップコーンのシーンはすばらしく、パチパチはじける音まで出てきて驚かされました。 山本孝 読んでいるだけで、お腹が空いてしまう! ホットケーキ、ベーコンエッグ、スパゲッティ、ポップコーンと徐々に、激しくなるポッアップにつられて、どんどんテンションが上がっていく! カレーの作り方まで載っていて、調理本としても活用できそう! 広田郁世 ポップコーンのはじける音、回すと煮えるカレー。細かい仕掛けが楽しく完成度の高さを感じます。 立野幸雄 頁を捲る度に飛び出す色鮮やかな食べ物が、魔法のフライパンが生み出す美味しい食べ物のようで食欲がそそられます。身近な食材や食べ物を扱っての仕掛けが効を奏しているといえます。 銅賞射水市教育委員会賞『 リリーさんのようひんてん 』
はたこうしろう なんと緻密で繊細な切り絵なのでしょう、と見惚れてしまいました。しかもページ数も多いのに最後まで妥協することのない姿勢に、高い美意識を感じます。ご自身の身近にある感動や思いを核にした物語を作れれば大きく飛躍すると思います。 山本孝 作品全体が切り絵で描かれていて、その細やかな手法と、コツコツと費やされた時間達が、作品の美しさを物語っている。黒を中心として僅かな色しか用いてないにもかかわらず、優しさや温もりを感じる。動物の設定などをもう少し詰めて欲しい。 広田郁世 とても繊細な手仕事、そして効果的な色使いは美しい画集のようです。お話にさらに膨らみが欲しいです。 立野幸雄 頁ごとに見惚れてしまうほどの緻密で繊細な切り絵で感嘆します。ただ切り絵が素晴らしいのでストーリーが二の次になりがちです。この両者が調和すれば最高の作品となるでしょう。そこが惜しく今後が期待されます。 銅賞射水市教育委員会賞『 竜の門 』
はたこうしろう 版画を仕掛け絵本に使っています。そのことでシリアスで力強い作品にすることに成功しています。仕掛けに派手さは無いのですがあちこちに気の利いた仕掛けが丁寧にほどこされていて、これに携わった方々の情熱を感じました。 山本孝 まず絵本の箱! その重厚な仕上がりに、この作品に込めた思いが伝わる! 版画を用いたことにも驚いた! 同時に仕掛け絵本の新たな可能性も感じた。手法が、作品の内容とも合っていて、お話の世界に広がりを、感じる。仕掛けの部分をもう少しスムーズに、工夫をしてもらえたら、評価は上がったかもしれない。次回も楽しみ! 広田郁世 BOXに驚き! 簡単にあけてはならないお話かしらと……。版画の持つ白黒と擦れの迫力が伝わります。 立野幸雄 先ず立派な箱入りの作品に驚きます。内容の伝説を活かすのに枯れた墨絵のような黒と白とで描いた発想は大いに評価しますが、この種の伝説はよくあるうえ、色調が淡すぎるので全体の印象が薄くなっています。努力と発想は大いに評価しますが、あと一工夫が欲しいものです。 奨励賞
入選
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