新田一良・作　今まで何度も新田さんの作品に触れてきましたが、今回は大きく飛躍され、最高の作品を作ってくれました。しかけの巧みさに加え物語も面白く、ページをめくるたびにポップアップが相乗効果をもたらして最後まで楽しませてくれます。特に最初からパチパチと音が出るしかけで、すっかり心を掴まれました。

「新田さんの作品、いいですね。」と、はたこうしろうさんが、しかけを動かしながら言われました。私はすでに選ばれていた一般の部の入賞候補作品を、しかけの部の５冊を上まわる作品があるかを考えながら、１冊１冊見ていきました。ところが「新田さんの作品を上まわる作品がない。えらいことになるぞ。」これまでの審査で感じたことのない興奮と不安の一刻を過ごしました。各賞を決める審査会で私が選んだ５冊のしかけ絵本が全て受賞することになりました。初めての快挙です。私の中では５つの作品に順位はありませんでした。それぞれがテーマと合ったしかけが考えられていて、いい仕上がりになっていたからです。それでも順位をつけないといけないのです。決め手は「明るさ、たのしさ」でした。その点で新田一良さんの『おてらのいけのほとりにて』は、文句なしでした。

まず最初のページ、ペタペタペタという音とともにページが開きました。飛び跳ねる4 匹のカエルの音でした。しかけ絵本が紙の立体感だけでなく、音の演出をしていました。音のしかけ、その上に立体感を抑えたカエルの表現、そしてカエルのすぐ上方に文章の配置がされていたので、読み手に対する音とストーリーへの興味を失わせません。また、ページをめくると赤い大きな風船が現れます。この風船のしかけも大変に見事な技巧でした。そしてこのページまでは下を見下ろすような構図ですが、その次のページからは、物事を見上げる構図に変わります。この見上げる構図が、物事を前向きに捉える意識を演出し、ストーリーと大変よく合っていました。これまで数多くの作品を本展覧会に応募されてきた経験が、凝縮されていると思いました。これからも作品を拝見させて頂きたいと思います。

ページを開くと蛙がパタパタと飛び跳ねるしかけ。飛びたいと願う池の亀を蛙たちが風船につないで飛ばしてやるという物語。生き物好きの子ども達にぜひ見せてあげたいしかけ絵本です。

山口菜摘・作　２２歳とは思えない知性に溢れた快作でした。切り抜かれた紙の向こうに見える絵が、ページをめくると思いがけないシーンに変わります。さらに文章までもが切り取られた穴を通して繋がって行くというアイデアが本当に新鮮でした。ページをめくるたび、静かな驚きを感じる知性的な作品でした。今後は絵に力を注いでほしいです。期待しています。

この作品の見どころは、前後のページの文章や絵が、前後のページに開けられた「窓」を通して活かされているところです。特に良い点は、その開けられた「窓」を、読み手に意識させない、しかけらしさを極力抑えているところだと思います。その良さが、読み手にストーリーを読ませる集中力を与えていました。何でもない日常の出来事を、まさに切り取ったと言える作品でした。次回の作品はどんなものを作って下さるか、楽しみにしています。

傘、下駄箱、水溜まり、横断歩道等が切抜かれて立体的になり、次のページに繋がっていく楽しいしかけの絵本。子ども達なら自分の帰り道を切り抜いて同じように作ってみたくなるでしょう。

よこやまちぐさ・作　この作品、子どもたちは絶対によろこぶと思います。兄弟のしりとり合戦の話で、お兄ちゃんが技ありの攻撃をします。そして弟が終盤に逆転。しかも最後にかわいいオチもつく完成度の高い作品でした。兄弟のセリフをもう少し推敲すれば、もっと盛り上がることでしょう。ただ、絵は物足りなさがあります。楽しみながらたくさん描いて、画力を向上させてください。

兄と弟が、えんえんとしりとりをしている情景が、様々に表現されている絵本でした。一つ一つの絵が可愛らしいだけでなく、兄弟の会話が実際をよく表現しており楽しい作品でした。銀賞／たにぐちかずこさんの『きょうのおやつはなぁに？』 　お母さんの作ってくれたドーナツをめぐる兄弟の話でした。とても楽しい作品で、読み聞かせのときにとても良いと思いました。

しりとりをしながら留守番をする兄弟の話。とうてい部屋は散らばり、お母さんが帰って「かみなり」が落ちて、しりとりも終わる。なんとも愉快！ 生活から生まれた絵本の傑作です。

長澤千恵美さんの源平合戦の悲劇に取り組んだ『壇ノ浦』は、これ以上ない高度なテクニックで、シルエットで勝負する長澤作品の中では最高の仕上がりでした。だが、私は「絵本は見終わったとき生きる希望が湧いてくるという大きな役割をもっている」と考え、私のテレビ番組づくりも同じ考えで制作していましたから、どうしてもこの作品を最高賞には推せませんでした。

薄い段ボールの紙の上に絵やしかけが表現されていました。特に絵の表現の素朴さが、段ボールの紙とよくあっていました。人の肌のぬくもりの伝わる色彩の塗り方がとても良い印象でした。

子どもの成長を願う優しい思いがしかけに込められて伝わってきます。

たにぐちかずこ・作　去年の金賞に続いて今年も入賞されました。実力のあるたにぐちさんらしく、ページをめくるごとに笑って盛り上がる構成になっています。物語に誘われて、ドーナツを食べたくなりました。ただ色使いが渋いのが少し残念です。もう少し色の使い方に気をつければ、もっと楽しい雰囲気になったと思います。

子ども達は遊びのあとのおやつが待ち遠しくて待つ間も踊ったり歌ったり、じっとしていない。子ども達が共鳴できる動きがあり、おやつの匂いも漂ってくる楽しい絵本です。

山台直子・作　スミレの種が、アリを誘って種を巣穴まで運ばせる巧みな戦略を、うまく擬人化して絵本にしています。可愛い絵でありながら、自然科学絵本のツボを押さえた魅力的な作品になっていると思います。

すみれの「たねぼう」 とアリの交流が、優しい絵とともに表現されていました。アリのおうちに着いた時、「ぼくのおうちもみつかった！」というページの情景が少し描かれていれば、より話のつながりができたと思います。

蟻とスミレの関係をわかりやすく描いた幼児向けの科学絵本になっています。小さい子はすみれの種坊主になって楽しみ、科学の芽を育てることでしょう。

このしかけ絵本の中身を見たとき、なぜか美味しそうな表現だなあという印象でした。一つ一つの色や形がとても柔らかく、あたたかさを感じました。でも一つ作者さんへ注文したいのは、絵本の外側（表紙や裏表紙）の表現を、絵本の中身と同じくらいの印象にしてほしいです。次回、期待しています。

アップリケや刺繍が優しく細やかで、親子で開くと自然に対話が弾むことでしょう。