この種の絵本が上位賞に残ることはきわめて珍しいことです。‘謎かけ’や‘だじゃれ’はアイデアが命ですが、一度オチがわかってしまうと、再びの興味は失せてしまいます。この作品は度々の再読にもそうはなりませんでした。アイデアだけではない魅力は作者の持つセンスによるもので、この絵でなければならないと確信します。

今年度の応募作の中で、丁寧な絵画表現と絵本ならではのストーリー展開で、 読み手の楽しさを引き出すことが最も強く表現できていました。

抹茶色の表紙と茶碗の上に座る利休さん！　思わず笑いがこぼれます。千利休を知る人も知らない人も興味をそそられ、読み進んで最後の落ちに爆笑するかどうかはそれぞれでしょう。ナンセンス好きの子ども達と一緒に読みたくなりました。

ページをめくるごとに花が立ち上がります。アジサイや百合など、それぞれの花が精巧にデザインされ、その細工や色合いが際立っていました。しかけ絵本開閉時の滑らかさは、この作品の完成度の高さがうかがわれました。

本年度の井口文秀賞にしかけの部の作品が選ばれたことは、長年にわたってしかけ絵本を愛し続け、このコンクールで審査を担当し続けてきた私にはこの上ない喜びでした。本作は花をテーマにした色もつくりもきれいな作品で、審査員全員が推しました。色あざやかな花々が頁をめくるたびにとび出してくる、しかけ絵本ならではの作品に仕上がっていました。しかけのすごさを見せようとテクニックを駆使し、工夫を凝らした作品が多かった中で、平凡なしかけで、こんなに魅力のある作品になるのだということを教えてくれるしかけ絵本でした。

頁を開くごとに繊細さだけでなく、美しさも強く感じさせる作品になっていました。平塚さんのモノを見る世界観とともに、モノの美しさを感じ取る能力の高さを感じました。

亡き祖母の好きな花が本から飛び出すたびに、祖母への想いが深くなります。花になったお祖母ちゃんの物語と、しかけがしっくりとマッチしている作品だと思いました。

捨てようと思った古いお手玉には思い出が詰まっていました。お手玉に使われた生地はお母さんの着物。その着物を目にした時代の記憶が絵本に綴られています。刺繍されたひと針ひと針が読む人の心を癒してくれます。老人介護施設の皆さんならではの合作絵本でした。

『すてられ すてられん』がしかけの部に出品していたら、私は審査に大変悩むところでした。

これまで拝見させていただいた作品の中で、最も印象深い作品になっていると思いました。絵と文字が、絵本としての話をよりいっそう深める表現へとつなげているように感じました。

絞り染めの表紙の題名は富山弁なそうな。母親の形見の布で作った防空ずきんやカバン、穴のあいたお手玉が、そのまま作品に生かされ、布も思い出も捨てられないという気持ちが共感を呼びます。

前回の講評で、私が「ふとん絵本の秀作が一般の部の秀作と競い合うのを夢想してワクワクしている」と書いたことに刺激されたのでしょうか。今回はふとん絵本（布絵本）に秀作がありました。一般の部で金賞に輝いた老人介護事業所あさひホームの『すてられ すてられん』 と、しかけの部で金賞に輝いたチクチク文庫の『はしる』が共にレベルの高いふとん絵本でした。

しつけ絵本は、子どもたちにとっておもしろくて共感できることが必須です。その点においてこの作品は、着ている洋服を脱ぐ動作と、タマネギ、ゆで卵、バナナなどが皮を脱いでいく比喩に無理がなく、どのページも楽しく見られました。最後に洋服にもどって終わるのも自然で、よくできた絵本になっています。

とても単純なテーマを、丁寧かつ控え目に淡々と表現されている絵本で、普遍的な絵本の一つになる魅力を感じました。小田部さんのモノを見る優しさが強く表わされていると思います。

表紙の女の子の籠に、「ぬがせてあげる」ものが入っています。親子で楽しく対話しながら読める完成された作品だと思いました。

単純なしかけですが、いっぱい切り込まれたしかけの窓をあけて覗く世界に工夫がありました。

グアテマラの少年にクツを届けにいくお話。作者の実体験をもとに絵本が構成されています。こうした場合、作者に実感がある分、それらが強く語られ、読者がついて行けないケースが多々ありますが、この作品はバランスよく仕上がっています。この絵本から感じ取る大切なものが、読者それぞれの心に残ってくれると思います。

これまで拝見させていただいた作品に見られた絵画表現の良さがにじみ出る作品になっていると思いました。次回の作品制作には、実際にあった出来事だけでなく、作者の考えをいかに端的に読み手に伝えるかを研究していただけたらと思います。

ボランティア活動をしている母親に付いて、グアテマラの家族へ靴を届けに行った少女の話。海外へ視野を広げていく少女が活き活きと描かれていて爽やかです。作者のメッセージも感じられる作品でした。

新田一良さんは、これまで金賞に２回も輝いているしかけの部の手だれといってもいい方です。今回 の『ぼくのなつ休み』 も絵が楽しく、しかけにもテクニックを駆使したレベルの高い作品でした。しかし、コンクールではそれがマイナスに見えてしまうこともあります。今回はそんな巡り合わせで銅賞になりました。これからも高みを目指して精進して下さい。