審査委員の先生からの
メッセージ
じぶんの『ことば』と『え』で
じゆうに たのしく あそんでくださいね。
ことしも みなさんの
手づくり絵本に あえるの うれしいな。

低学年のみなさんへ
いま何さいですか?
年れいによって、心にひびく本ってちがうんです。
一ばん好きな本を思いうかべてください。
おとなになったら、たぶん、かわっています。
おなじ本でも、好きなところがきっと、かわります。
いまの自分にだけぴったり、って本があります。
とくべつな一さつです。
つくるときもおなじです。
おとなっぽく、きれいにしあげる必要はありません。
そういうのは、おとなになった自分用にとっておきましょう。
おとなの自分にはさか立ちしたってつくれない、いまの自分にだけつくれる絵本があります。
それがいまのぴったり。
とくべつで最高の一さつです。
高学年以上のみなさんへ
「誰かに読んでもらうためにつくる」ことを意識してみましょう。
表紙の描き方、ページ数、読みやすい文字の配置かどうか、もちろん内容にも、それらのすべてに読み手の心象に想いを馳せてつくっているかどうかが表れます。
いいかえれば、そこがしっかりしていないと読み手になにも伝わりません。
作り手の頭のなかだけに存在する、閉じた世界になってしまいます。
読者の数だけ世界は広がります。
それぞれが違う世界です。
創造物はだれかの心と反応することで、はじめて完成します。
ちょっとしたアドバイス
絵+文=絵本
みなさんがつくろうとしているのは「絵本」です。
イラスト集(絵ばっかり)でも、小説本(文ばっかり)でもありません。
絵本の強みは「絵」と「文」、ふたつの道具が使えるところ。
ひとつだけでも強力ですが、ふたつをうまく組み合わせることですばらしい力を生み出します。
バランスよく使いましょう。
リズムは魔法
魔法使いは魔法をかけるために呪文を唱えます。
英語では「呪文を唱えること」を「incantation」といいます。
「歌う(cantāre)」という古代の言葉がかたちを変えたものです。
絵本は「声に出して読む」ものです。
だから魔法といっしょです。
「リズム」が大切。
読み上げたとき「リズム」が生まれるように工夫しましょう。
歌うような「リズム」がきざめたなら、あなたの本は魔法の本になります。
絵はおはなし上手
授業がはじまりました。
先生が話しています。
ずっと話しています。
ずーっとずーっとずーっと話しています。
そしてあなたは寝てしまいます。
先生の話に「リズム」があったらどうでしょう?
ちょっと楽しそうですね。黒板に字を書く音などはリズミカルです。
カツカツカツ、カツカツカツ、カツカツカツ。
すこしだけがんばって、やはりあなたは寝てしまうでしょう。
同じことがあなたの絵本でも起こります。
文ばかりだとたいくつで、わかりづらいです。
どうしたらよいでしょうか?
絵です。
居眠りには、絵がこうかばつぐんです。
黒板に絵をかいてもらえれば、そんなにねむくはなりません(たぶんね)。
じつは絵はとてもおはなし上手です。
文が苦手なことも簡単に説明してのけますし、絵でストーリーを伝えることだってできます。
絵もしゃべりたがっています。語らせてあげてください。
引き算が大事
かきたいことを思いついたとき、あなたの胸にはかきたい気持ちがあふれかえって、どんどん筆が進みます。
その結果、困ったことになります。
かきすぎてしまうのです。
文ばかりだとたいくつで、わかりずらい、というお話をしました。
絵と協力することで、もっと話が伝わりやすくなることもわかりました。
ですが、もともとの「かきたいこと」が多すぎると、協力するのもたいへんです。
文も絵もしゃべりたがりですから、ほうっておくとページいっぱいに情報があふれます。
クラス全員が同時に発表をはじめるようなものです。
みんなの話が聞こえますが、だれの話も心に残りません。
大切なのは引き算です。
もったいないと思っても、がまんして引きましょう。次回作で使えばいいんです。心の引き出しにしまっておきましょう。
書き過ぎや描き過ぎにならないように、一番心に残ってほしいことに集中しましょう。
「三上」を試してみてください
いい文章を思いつきやすい3つの場所のことです。
具体的には「馬の上」「枕の上」「厠の上」です。
1000年前の中国の文学者が考えた裏ワザなので、実際にやってみるのがむずかしいものもあります。馬にのれない人は、散歩をするのがいいでしょう。
アイデアは上の空のときに広がります。
酸素は足りてますか?
散歩をするとアイデアがわきやすいのには理由があります。
歩くことで血のめぐりがよくなり、脳にじゅうぶんな酸素が届くからです。
脳はたいへん食いしん坊です。
全身で使う酸素の20パーセント以上を使ってしまいます。
酸素がちょっとでも足りなくなると、脳はうまく働きません。
頭がぼーっとしてなにも考えられなくなります。
ひどいときには、気分がふさぎこんでしまうこともあるんです。
正しい姿勢には自然に呼吸を深くして脳の酸欠を防ぐ効果があります。
ときどき机からはなれてからだを動かして、たまには換気をするといいでしょう。
内容にあったページ数で
「かきすぎない」というお話をしました。
これは「物語の内容に見合ったボリュームでかこう」ということです。
絵本を開いた1ページについても、絵本全体についてもいえます。
ページ数が多ければ良いわけでも、少なければ悪いわけでもありません。
急テンポ過ぎず、間延びしない、ほどよいページ数を考えてみましょう。
本文のページを「8の倍数」になるようにつくる
印刷機の版(印刷のために文字や図形を彫った板)や紙をむだなく使うための基本ページ数です。ルール違反するとまっ白なページが余分に入ったり、印刷料金が上がったりします。
「手づくり絵本」をつくるときは気にする必要はないですが、将来印刷会社で製本してほしい場合は意識しておくといいでしょう。
絵本なので短めに
長くても28ページから32ページぐらいを目安にしましょう。
内容にあったボリュームを追求した結果、40ページをこえることもあるかもしれません。しかし絵本ですから基本的には長すぎないのが望ましいです。
表紙は「顔」
本には大きな弱点があります。
開いてもらわないと、なにも伝わらないことです。
そのために表紙があります。
表紙は、絵本の「顔」です。
絵本の第一印象を決める大切な「かお」です。
思わず手に取りたくなるように描いてみましょう。
どんなに中身がすばらしくても、表紙が不釣り合いで読んでもらえないのでは、もったいないですからね。
トータルコーディネートしよう
表があれば、裏があります。
表紙があれば、裏表紙があります。
さらにその裏には、見返しがあります。
表紙、見返し、裏表紙、
ぜんぶひっくるめて、ひとつの作品です。
「トータルコーディネート」というわざがあります。
「こういうふうに思ってほしいな」って考えに合わせて、すみずみまで整えることです。
たとえば、服のテーマが「夏」だったら、くつや小物も「夏」っぽいものにそろえる。
デッキのテーマが「ドラゴン」だったら、ケースやスリーブも「ドラゴン」っぽいものにそろえる。
形や、色や、素材についてもよく考えて、ぴったりのものを選ぶ。
全部の息がぴったりそろうと、だれが見てもそれとわかる「伝わる力」が生まれます。
絵本もいっしょです。
物語に合わせて、表紙や裏表紙、見返しをコーディネートしましょう。
絵をかいたり、色を合わせたり、素材を変えたり、ちょっとしたオチを仕込んだり。
そうすることで絵本の魅力がぐーんと増します。
まして、みなさんがつくるのは「手づくり絵本」です。
どんなアイデアだって自由に試すことができます。
創意工夫を楽しみましょう。
ラテン語です
古代ローマ共和国の人たちが日常的に使っていた言葉です。 およそ2000年前のことですね。
ヨーロッパの諸言語には、いまもラテン語のおもかげが残っています。
魔法について調べると、よく古代の言葉と出くわします。 「ハリー・ポッター」の守護霊を呼ぶ呪文はラテン語でできています。
日本で実際に使われる守護の呪文にも古代語が使われています。
「臨兵闘者皆陣列在前」や「急急如律令」などです。
漢字ですね。
1700年くらい前に、中国で使われていた言葉が日本にわたってきました。
日本人にとっての古代語です。
なぜ魔法には古代の言葉が使われているのでしょう。
これはひとつの予想ですが、古くから伝わる魔法だから、古い言葉が使われているのかもしれません。
「リズムがよい、力のある言葉」が多くの人に受け入れられたとき、魔法の言葉として2000年先の未来まで語りつがれるのではないでしょうか。
だって「急急如律令」なんて、もともと命令書のそえがきで「はやく法律のとおりにしなさい」って意味ですからね。
みなさんの絵本の言葉にも魔法になるチャンスはあるってもんです。