こころ育てる絵本との出会い

マグちゃん通信

2025 8 - 9 vol.93

絵本作家インタビュー羽尻利門

マグちゃん通信vol.93 表紙『夏がきた』(あすなろ書房)より
表紙『夏がきた』(あすなろ書房)より

日常の中にある風景、習慣、人間模様の中に、

僕が「すてきだな」と感じるものが

たくさんあります。

それらを作品で表現して、

読者と共感し合いたいです。

プロフィール

羽尻利門

1980年、兵庫県生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。

絵本の出版のほか、小学校の教科書の挿絵など多く手がける。

近著に『四角い空のむこうへ』(由美村嬉々/文 晶文社)、『ねこのえきちょうさん たま』(金の星社)、『手ぶくろを買いに』(新美南吉/作 新日本出版社)、『すごいぞ!クモの探偵団』(谷本雄治/文 あかね書房)、『つきみのまつり』(世界文化社)、『きみも運転手になれる!パノラマずかん運転席』(宮本えつよし/文 パイインターナショナル)などがある。

日本児童出版美術家連盟会員。

徳島県阿南市在住。

絵本原画展

2025年7月19日(土)~9月11日(木)

『夏がきた』 『夏がきた』
『夏がきた』 あすなろ書房 あさから げんきな セミのこえ ことしも あえた なつのおと ちりん ちりりん なつがきた
里山と海に恵まれた四国在住の画家が、日本の夏の風物をみごとに描いた絵本。
『つきみのまつり』 『つきみのまつり』
『つきみのまつり』 世界文化社 十五夜の夜、神社のお祭りへ行くキッカとゲント。
山の頂上の境内では、月の神さまに感謝と祈りを捧げる観月祭が行われていて…。
人も動物もすべての生きとし生けるものが、美しい満月をめでる観月祭の物語。

羽尻利門先生にインタビュー

子どもの頃、お気に入りだった絵本や読み物はありますか?

夜、布団の上で母親に読んでもらった日本や世界の昔話が好きでした。

一番印象深いのは、『お地蔵さまの赤い目』という朝鮮民話です。裏山のお地蔵様の目が赤くなると天災が起きる、という旅の僧の忠告を信じるおばあさんをからかって、村人がわざとお地蔵さんの目を赤く塗り、結果、天災が起きて、おばあさんだけが助かった、という話です。

影響を受けた作家はいらっしゃいますか?絵本以外の分野でも結構です。

アメリカの画家ノーマン・ロックウェルさん、漫画家の鳥山明さん、わたせせいぞうさん、絵本作家の林明子さん、映画監督の宮崎駿さんです。世界観、構図、人物の描写など、いろんな影響を受けていると思います。

絵本作家デビューされたきっかけは?

2014年に知識絵本の挿絵で児童書デビューをしましたが、創作お話絵本のデビューとなると、徳島県におられるくすのきしげのり先生との出会いがきっかけです。先生が「羽尻くんが本気で絵本の出版を目指すのなら、君の絵に合うお話を書いてみよう」と仰ってくださり、絵本『やめろ、スカタン!』(小学館)が世に出ました。

画材は何を使っていらっしゃいますか?

輪郭線は三菱ハイユニ鉛筆HB・B2・B4、絵の具はホルベインのアクリリックガッシュです。筆は、ラファエルの水彩825フラット大22号とホルベインのブラックリセーブルSQ-1の2種類のみです。たまに水彩色鉛筆やソフトパステルも使用します。紙は1㎜厚のイラストレーションボードです。

今回、原画を展示する絵本の制作秘話や思い出を教えてください。

『夏がきた』

最初の作・絵の絵本です。「作・絵の絵本を作りたいけれど、どうすればいいか…」と悩んでいた時、先輩作家さんから「心から自分が『好きだ』と思う世界を作品にしたらいい」と言われ、自分の「好き」に向き合って作りました。この作品は僕の「好き」の凝縮です。

『つきみのまつり』

家の前の山に、津峯神社というお宮が鎮座しています。そのお宮では、十五夜に『観月祭』というお祭りが行われ、僕はその幻想的な雰囲気にすっかり魅了されました。「いつかこれをモデルに絵本を描きたいな」と思い続けて数年後、世界文化社さんからお月見絵本のオファーをいただきまして、作品化の道が開けました。

どんな時にアイデアが浮かびますか?

普段の生活の中で、「あ、いいな」と自分の心を動かす人間模様や風景がたくさんあります。それらがいつも頭の中に浮かんでいて、徐々にアイデアになっていきます。

スランプの時はどのように乗り越えられますか?

制作途中、原因不明の違和感を感じて行き詰まる時があります。その時は、ひと晩その作品から離れて客観的な目で見つめ直します。それでも駄目な時は、妻に相談します。遠慮なく何でも言ってくれますし、妻に話をしていると自分の思考が整理されていき、次に進む手がかりを得られることがあります。

今まで手がけられた作品の中で、一番印象深いものは?

『神社のえほん』(あすなろ書房)でしょうか。専門家でない僕が知識絵本を単著で世に出す…無謀に見えますが、自信はありました。

たまたま地元のおじいさんから氏子総代を引き受けて、何年も神社のお祭りの世話をしていたからです。何でもやってみるもんですね(笑)。宮司さんに質問したり、社務所内を撮影させてもらったり、関東で神職体験をしたり、数十冊の書籍に目を通してノートにポイントをまとめたり…。

最後は、細部の詰めのところで編集Yさんと鬼気迫るやり取りをしました。制作開始から5年の月日を経て世にでました。思い出深さはひとしおです。

作品作りのこだわりや絵本を通じてお伝えになりたいことは?

日常の中にある風景、習慣、人間模様の中に、僕が「すてきだな」と感じるものがたくさんあります。それらを作品で表現して、読者と共感し合いたいです。

絵本作家以外でやってみたいお仕事はありますか?

考えたのですが…今は、絵本作家・画家・イラストレーター以外思いつきません。過去に憧れた職業は、外交官・新聞記者・和菓子職人です。

ご趣味についてお聞かせください。

郷土人形・置物・フィギュア・ミニチュアなどが好きで、昔から買う癖があります。インスタグラムによく登場しますよ。

お好きな言葉を教えてください。

相田みつをさんの『しあわせは いつもじぶんの こころがきめる』

ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

これからも、日常にある「すてき」を絵本にしていきたいと思いますので、ぜひお楽しみに! また、僕の絵本には作品を超えて登場する共通のキャラクターや、絵の中に隠した文字など、遊びの要素が存在します。いろんな作品の絵を見ながら、新な発見を楽しんでもらえると嬉しいです。

羽尻利門先生、ありがとうございました!