こころ育てる絵本との出会い

マグちゃん通信

2024 6 - 7 vol.86

絵本作家インタビュー植垣歩子

マグちゃん通信vol.86 表紙『うたこさん』(佼成出版社)より
表紙『うたこさん』(佼成出版社)より

大切にしていることは…

子どもの頃の自分「小さいあゆちゃん」が

喜んでくれるかな?

と自分に問いながら絵本を描くことです。

プロフィール

植垣歩子

1978年 神奈川県生まれ。小学校6年の時に描いた絵本『いねむりおでこのこうえん』(文・石毛拓郎/小峰書店)で第1回DIY創作子どもの本大賞。2002年 第3回ピンポイント絵本コンペ優秀賞受賞。絵本に『すみれおばあちゃんのひみつ』『おじいさんのいえ』(偕成社)『ぶんぶくちゃがま』(文・富安陽子/小学館)『おもちのおふろ』『おもちのかいすいよく』(文・苅田澄子)『おふとんさんがまってるよ』(Gakken)『どろんばあ』(文・小野寺悦子)『あずきのあんちゃんずんちゃんきんちゃん』(文・とみながまい)『にんじんだいこんごぼう』(福音館書店)『わらしべちょうじゃ』(あすなろ書房)『うたこさん』『とうもろこし つぶこさんの へんしんサロン』『ごぼうせんせいの いそがしい いちにち』(佼成出版社)『おばけと かくれんぼ』『ようかい おふろ』(ほるぷ出版)『アリゲール デパートではたらく』(ブロンズ新社)など。さし絵の仕事に『カラスてんぐのジェットくん』(富安陽子・作/理論社)、『ロサリンドの庭』(エルサ・ベスコフ・作 菱木晃子・訳/あすなろ書房)現在、絵本や児童書を中心に活躍中。

絵本原画展

2024年6月1日(土)~7月21日(日)

『うたこさん』 『うたこさん』 『うたこさん』
『うたこさん』 佼成出版社 食器たちの朝の楽しみは、大好きなうたこさんの歌を聞くこと。でも、今朝はうたこさんが起きてきません。かぜをひいたうたこさんを元気にしようと、食器たちはおかゆ作りを始めますが…。
『かめのカメリさんおうちをなおす』 『かめのカメリさんおうちをなおす』 『かめのカメリさんおうちをなおす』
『かめのカメリさんおうちをなおす』 理論社 カメリさんが古い家を自分にぴったりの家に直します。ヘビの「へびながリフォーム」、カエルの「けろっとおなおし」などのお店をめぐり、最後はお化けの「バケバケリフォーム」もたずね、できあがったのは…

植垣歩子先生にインタビュー

子どもの頃、お気に入りだった絵本や読み物はありますか?

『ぶたぶたくんのおかいもの』(福音館書店)、『もりのはいしゃさん』(偕成社)などの「もりのシリーズ」や『ドリトル先生』(岩波書店)シリーズ、『ラブおばさんの子供料理教室』(鎌倉書房)。

影響を受けた作家はいらっしゃいますか? 絵本以外の分野でも結構です。

児童文学作家の小沢正さん。

絵本作家デビューされたきっかけは?

小学校6年生の時に、絵本の賞に応募したことがきっかけです。

『いねむりおでこのこうえん』(文・石毛拓郎/小峰書店)という作品で、文章は父の友人が書き、私が絵を描きました。大賞を受賞し、出版もされました。その頃から、子どもの思い込みで、絵本作家になるつもりでした。

その後、大学を卒業して、ピンポイントギャラリーの絵本コンペで賞を頂いてから、絵本作家として歩み始めました。

画材は何を使っていらっしゃいますか?

作品によって違いますが、水彩絵の具が多いです。他には顔彩や岩絵具を使うこともあります。水彩クレヨンやサインペンを使うこともあります。

今回、原画を展示する絵本の制作秘話や思い出を教えてください。

『うたこさん』

子どもの頃、台所の音を聞くのが好きでした。野菜を刻む音、お鍋のぐつぐつやコトコトしている音を聞いていると、台所にある身近なものが、歌ったり踊ったりしているように感じました。

また、子どもの頃から、身近なものがどんな顔をしているか、年齢はいくつなのかを想像するのが好きで、そういうものをモチーフにした絵もたくさん描いています。『うたこさん』は、子どもの頃の幸せな記憶を絵本の形にしたものです。

『かめのカメリさん おうちをなおす』

子どもの頃から家にいるのが好きでした。絵を描いたり、クッキーを焼いたり…。今でも家にいるのが大好きです。

家というのは、外でどんなことがあっても、帰ってくれば、自分自身を取り戻せる場所だと思います。いつか、家の絵本を描いてみたいと思っていました。ちょうど、実生活で中古の家を買って、リフォームをしていたので、いろいろなアイデアが湧きました。カメリさんを通して、理想の家を描いてみました。

どんな時にアイデアが浮かびますか?

ほとんどのアイデアは生活の中から浮かびます。

今まで手がけられた作品の中で、一番印象深いものは?

『すみれおばあちゃんのひみつ』(偕成社)です。

父の実家が長崎で、「植垣洋裁店」という店をやっていて、夏休みなどに滞在するときは、布がたくさん置いてある部屋が遊び場でした。祖父がミシンを踏んでいる後ろ姿も印象的で、私や姉にも白い絹の襟の付いたベルベットのワンピースを作ってくれました。

母も洋裁が得意で、子どもの頃の服は、だいたい母の手づくりでした。そんな記憶から、いつか洋服を作る人の話を描いてみたいと思っていました。そんなある日、近所の公園で鳩のスケッチをしていると、見知らぬおばあさんが針と糸を持ってきて、「糸を通してください」と私に言ってきました。この奇跡的な出会いにアイデアが溢れ、すぐに家に帰って、絵本を描きました。細部までこだわって描いた大切な絵本です。

この絵本は新しくは手に入りませんが、図書館などでぜひ手に取っていただきたいです。

作品作りのこだわりや絵本を通じてお伝えになりたいことは?

絵本を描く前にできることは何かな? と考えます。ごぼうが出てくる絵本を描く前には、ごぼうを収穫してスケッチしたり、小豆の絵本を描く前には、小豆を育てたりしたこともあります。お布団の絵本を描く前には、枕やお布団を作ったり。できるだけ自信を持って描けるようにスケッチや取材などの工夫をします。

他に大切にしていることは、この絵本は、子どもの頃の自分「小さいあゆちゃん」が喜んでくれるかな? と自分に問いながら絵本を描くことです。

絵本作家以外でやってみたいお仕事はありますか?

おもちゃ屋さんで働いてみたいです。洋服屋さんでも働いてみたいです。

ご趣味についてお聞かせください。

旅行が好きです。知らない街を歩くのも好きです。

最近、健康のために太極拳を習い始めました。

お好きな言葉を教えてください。

「おとなは、だれも、はじめは子どもだった」(『星の王子様』(岩波少年文庫)より)。

ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

私は、子どもの頃の幸せな記憶を支えにして、絵本を描いています。

子どもたちにとって、私の絵本が子ども時代の幸せな記憶の一部となってくれたら、これ以上に嬉しいことはありません。

それから、昔は子どもだった大人の方にも、私の絵本で、子どもの頃の記憶を思い出していただけたらいいなあ…と願っております。

植垣歩子先生、ありがとうございました!