こころ育てる絵本との出会い

マグちゃん通信

2024 2 - 3 vol.84

絵本作家インタビュー松田奈那子

マグちゃん通信vol.84 表紙『ちょうちょ』(白泉社)より
表紙『ちょうちょ』(白泉社)より

世の中には様々な人がいるということを

想像して描きたい。

そして、世界はごく身近なところだけでなく、

もっとうんと広いのだということを伝えたいですね。

プロフィール

松田奈那子

1985年北海道生まれ。画家。絵本作家。2012年第1回白泉社MOE絵本グランプリ受賞をきっかけに『ちょうちょ』(江國香織/文 白泉社)でデビュー。同作品が2015年、ブラティスラヴァ国際絵本原画展に出展。2015年~2017年の2年間北アフリカのモロッコで生活。広告、書籍の装丁画や挿絵、絵本制作のほか、個展、子ども向けの造形教室やワークショップなどを開催している。

絵と構成を担当した「うたのすきなねこ ララとルル」シリーズ(風濤社)、作絵の絵本に、『でこぼこ ぬりぬり なにがでる?』などの造形遊びのシリーズ(アリス館)や『ふーってして』『ぱったんして』(KADOKAWA)、『みつけてくれる?』『どたんばたん おるすばん』( あかね書房)、『ゆきのようせい』(岩崎書店)、『わたしは ねこ』(リトルモア)、『こびん』(風濤社)、『まる』(鈴木出版)、絵を担当した『ねこはすっぽり』(石津ちひろ/文 こぐま社)、『学校はうたう』(杉本深由起/詩 あかね書房)、モロッコを舞台にした『どうぞめしあがれ!』(佐野・ブーゼルダ・マリア/原案 ほるぷ出版)などがある。2020年公開のアニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』では劇中画を手掛けた。

絵本原画展

2024年2月3日(土)~3月28日(木)

『どたんばたん おるすばん』
『どたんばたん おるすばん』 あかね書房 やさしいおねえさん犬のフクと、やんちゃ坊主の猫のトラジ。おじいさんがおでかけの日、二匹で留守番をすることに。フクは大好きなおじいさんがいなくてさみしいけれど、トラジはどんなことをして遊ぼうか考えているだけ……。
『どたんばたん おるすばん』 『どたんばたん おるすばん』
『ちょうちょ』 『ちょうちょ』
『ちょうちょ』 江國香織/文 白泉社 ずば抜けた色彩センスが満場一致で評価された「第1回MOE絵本グランプリ」受賞作品。絵本に造詣の深い直木賞作家・江國香織さんが繊細な詩心溢れる言葉を乗せてつくりあげた珠玉の絵本!

松田奈那子先生にインタビュー

子どもの頃、お気に入りだった絵本や読み物はありますか?

五味太郎さんのしかけ絵本が好きでした。『きんぎょがにげた』『まどからおくりもの』…今になって思うのは、もしかしたら子どもの頃に繰り返し読んでいた『きいろいのはちょうちょ』が、デビュー作の『ちょうちょ』に影響しているかもしれません。白泉社MOE絵本グランプリに応募したときには『ちょうちょ ちょうちょ どこにとまった?』というタイトルで、探し絵的な要素も強かったんです。あとは、エリック・カールやレオ・レオニのコラージュで描かれた絵本にとても惹かれました。

影響を受けた作家はいらっしゃいますか? 絵本以外の分野でも結構です。

中学生の頃から本格的に油絵を描くようになったのですが、モディリアーニやエゴン・シーレの絵に心揺さぶられ、特に線の表現に魅了されました。

絵本の分野では、大学生の時に書店でベアトリーチェ・アレマーニャの『カール・イブー』という絵本を手にして、大人でも考えさせられる内容や絵の芸術性の高さに「わ!絵本ってすごい。面白い!」と感動しました。そのことがきっかけとなって再び絵本の世界に引き込まれていきました。

絵本作家デビューされたきっかけは?

「白泉社MOE絵本グランプリ」で、グランプリをいただいたことです。グランプリ作品は出版! ということでしたが、出版にあたり、まさか高校生の頃からファンだった江國香織さんに文章を書いていただけるなんて思ってもみませんでした!!

画材は何を使っていらっしゃいますか?

主にアクリルガッシュと色鉛筆ですが、ペンやインク、透明水彩、コラージュ、コピック、クレヨンなど、さまざまです。

今回、原画を展示する絵本の制作秘話や思い出を教えてください。

『ちょうちょ』

私はストーリーよりも先に絵が浮かぶことが多いのですが、デビュー作のこの絵本は、まさしくラストの色とりどりのちょうちょがいっぱい飛んでいる絵がパッと浮かび、そのページがどうしても描きたくて、そこに向かってストーリーを考えていったんです。

当時は絵本とはどのように作るものなのか、手順も何もわかりませんでした。なので、トンボ(印刷サイズの目印)もつけず、テキストのスペースやノド(本の中央の綴じ目)も全く意識せずに、思いのまま画用紙いっぱいに描きました。

『どたんばたんおるすばん』

2015年〜2017年の約2年間、夫婦で北アフリカのモロッコで暮らしていたのですが、その頃に現地で知り合った友人の愛犬と愛猫がモデルになっています。彼ら凸凹コンビと一緒に留守番をしたときの様子が可笑しくって微笑ましくて。私自身が幼い頃、妹と留守番したときのことを思い出したんです。私と妹も性格がまるで違っていて、怖がりで心配性な私と、気が強くていたずらっ子の妹。どこか人間のきょうだいにも通じるものがあると感じました。

どんな時にアイデアが浮かびますか?

普段の生活のなかで起こる何気ない出来事がきっかけになることが多いです。誰かの言動が印象に残り、そのことを考えているうちに絵が浮かび、ストーリーがもわもわと膨らんでいくとか。自宅で子ども向けの造形教室をしていたので、そのなかでおこなった造形遊びや子どもたちとの会話からヒントを得ることも。行き詰まっている時は編集者さんとお話しているとアイデアが次々に浮かんできたりします。

スランプの時は、どのように乗り切りますか?

スランプだと気がつかないフリをしつつ手を動かすか、調子の悪さを認めざるをえないときには散歩をしたり音楽を聴いたり、DIYをしたり愛猫たちと遊んだりしてリフレッシュします。作品作りのこだわりや絵本を通じてお伝えになりたいことは?

世の中には様々な人がいるということを想像して描きたいと、それはいつも意識しています。そして、世界はごく身近なところだけでなく、もっとうんと広いのだということを伝えたいですね。今いる場所がつらければ、別の場所へ行っていいし、行けるのだということ。居心地良く感じられる場所がどこかにきっとあるということ、ひとりぼっちな気がしても誰もが世界と繋がっているということ、絵本を読んで少しでも明るい気持ちになってもらえたらとても嬉しいです。

絵本作家以外でやってみたいお仕事はありますか?

自分の大好きなものばかりを集めた雑貨屋さん!

憧れます。

ご趣味についてお聞かせください。

素朴な民芸品や郷土玩具が好きで、いつのまにやら増えています。

お好きな言葉を教えてください。

「思いわずらうことなく愉しく生きよ」江國香織さんの小説のタイトルです。

「わたしにとって、自分の皮膚の外側はすべて異郷だ」文化人類学者・言語学者の西江雅之氏の言葉です。

ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

デビューしてから10年が経ちましたが、こうして絵本を描き続けていられるのは、読んでくださる皆さまがいらっしゃるおかげです。ご感想をいただくたび、とても励みになっています。どうもありがとうございます。ひとりのとき、ふたりのとき、ご家族と、お友達と、たくさんのひとたちと一緒に、これからも楽しんでいただける絵本を作っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

松田奈那子先生、ありがとうございました!