こころ育てる絵本との出会い

マグちゃん通信

2022 6-7 vol.74

絵本作家インタビュー岩田明子

マグちゃん通信vol.74 表紙表紙『せんろをまもる!ドクターイエロー』(小学館)より
表紙『ばけばけばけばけ ばけたくん』(大日本図書)より

まずは表紙を見て手に取ってもらう、

そして次のページをめくってもらう。

他にも楽しいことがいっぱいの

子どもたちが、最後まで読んでくれたら

こんなに嬉しいことはありません。

プロフィール

岩田明子

1967年、東京都生まれ。1991年、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。2004年、子どもの本専門店「メリーゴーランド」主宰の「絵本塾」に参加。絵本作品に「ばけばけばけばけ ばけたくん」シリーズ(大日本図書)、『ごっつあん!うまいもんずもう』(佼成出版社)、『こちら たこたびょういん』(PHP研究所)、『でてくる でてくる』(ひかりのくに)などがある。ブツブツやシマシマ、ニョロニョロしたものを描くのが好き。

絵本原画展

2022年6月1日(水)~7月21日(木)

大人気「ばけたくん」シリーズの2冊の原画をご紹介します。読んで楽しい、見て楽しい、あそび心もいっぱい!

『ばけばけばけばけ ばけたくん』
『ばけばけばけばけ ばけたくん』 『ばけばけばけばけ ばけたくん』
『ばけばけばけばけ ばけたくん』 大日本図書 おばけのばけたくんは、とってもくいしんぼう。おいしそうなにおいがすると、ふわふわ、ふわ~り とんできて、パクパクつまみぐい!するとあれあれ…
『ばけばけばけばけ ばけたくん
かみなりの巻』
『ばけばけばけばけ ばけたくんかみなりの巻』 大日本図書 今夜はお月見ピクニック。でもおべんとうを食べていたら、雨がぽつぽつ、雷がピカッ。どっすーん!とかみなりの子が落ちてきた!!

岩田明子先生にインタビュー

子どもの頃、お気に入りだった絵本はありますか?

「ひろすけ童話」をよく読んでもらっていました。言葉のリズム、優しい響きが心地よく面白いお話ばかり。『泣いた 赤おに』『むく鳥の ゆめ』『くりの きょうだい』などが好きでした。

影響を受けた作家はいらっしゃいますか? 絵本以外の分野でも結構です。

小学生の頃、ちひろ美術館に連れて行ってもらい、にじみの美しさ、かわいらしい子どもの姿が大好きになりました。まねして描いてみましたが上手く描けず、がっかりした記憶があります。

他にフンデルトワッサー、クリムト、ホルスト・ヤンセンも大好きです。

絵本作家デビューされたきっかけは?

絵本塾(三重県四日市市のメリーゴーランド主宰)に通いながら『ばけばけばけばけ ばけたくん』を制作し、その後、講師の方に出版社に持ち込んでいただき、出版が決まりました。

実はその前に、他の出版社のコンテストに応募し、賞をいただいて出版した『もりのおうさま』という作品があります。残念ながら出版社の倒産により今は絶版。ですので「ばけたくん」がデビュー作になります。

画材は何を使っていらっしゃいますか?

アクリル絵の具です。透明絵の具を塗り重ねて出る微妙な色が好きです。

最近は水彩絵の具や岩絵の具、墨にも興味が出てきました。年を重ねると自然素材に惹かれるのかも?

今回、原画を展示する絵本の制作秘話や思い出を教えてください。

『ばけばけばけばけ ばけたくん』

もう20年近く前になりますが、夜寝る前、幼稚園生だった息子にお話をしていました。ばけたくんというおばけの子が、夜中の幼稚園で仲間たちといたずらをしたり遊んだりする、即興の連続ドラマです。

一方、私が子どもの頃、カレンダーの裏に大好きなナポリタン・スパゲッティの絵を描いて楽しかった思い出があります。

絵本塾に提出するラフがなかなか描けず焦っていた時、ふと、ばけたくんがスパゲッティを食べてニョロニョロになったら面白い!と、ビビッと両者がつながりました。

『ばけばけばけばけ ばけたくん かみなりの巻』

これも寝る前に息子に話したお話のひとつでした。息子は雷を怖がり、よく泣いていたので、怖がらなくても大丈夫!という気持ちも込めました。

このかみなりちゃん、実は私がデパートの宣伝課に勤めていた頃、節分の豆を入れる袋のために描いたイラストが元になっています。気に入っていたので、いつか何かで使えないかなと温めていました。

そして、かみなりちゃんが主人公の『そらから ふるもの なんだっけ?』という言葉遊び風の絵本になり、回り回ってばけたくんシリーズの一員に戻ってきた感じです。

どんな時にアイデアが浮かびますか?

机に向かってウーンと考えている時より、何か他のことをしている時が多いような気がします。

「手で考える」ことが意外と有効で、まず描いてみると思いがけずアイデアが出てくることもあります。

今まで手がけられた絵本の中で、一番印象深い絵本は?

やはり、ばけたくんの一冊目。食べてばける展開はすぐに決まったものの、あのオチに落ち着くのに約一年かかりました。そしてペロペロキャンディーの質感や納豆の糸の引き具合を何度も描き直し、全力を注ぎ込んだ作品です。

絵本をお作りになるときのこだわりや絵本を通じてお伝えになりたいことは?

まずは表紙を見て手に取ってもらう、そして次のページをめくってもらう。他にも楽しいことがいっぱいの子どもたちが次のページをめくってくれて、最後まで読んでくれたらこんなに嬉しいことはありません。

そして絵本を通してゾワゾワしたり、おいしそうな匂いがしてきたり…と、体の感覚を共有できたら、なお嬉しいです。

今後どのような絵本を描いてみたいですか?

年齢を重ね、細かい絵を描くのがだんだんつらくなってきました。これからは水墨画のような作品を描いてみたいです。でも具体的に描かずに表現するのは本当に難しいですね。

絵本作家になっていなかったら、どんなお仕事をしていたでしょう?

幼稚園の頃はケーキ屋さん、小学生になるとファッションデザイナー、そしてなぜか炭焼職人、とやってみたい仕事はいろいろありました。結局、人の役に立つ物を作り、そこそこ暮らして行ければ幸せです。

ご趣味についてお聞かせください。

あまりに練習しないので先生から「やめた方がいい」と言われてやめたピアノ。今はよく弾いています。好きな曲が少しずつ弾けるようになる楽しさ、今頃わかりました。

家庭菜園も趣味の一つです。ご近所で苗を分け合ったり、コロナ禍でも人と交流できていいですね。ばけたくんと狸のぽんたが畑でばける『ばけばけばけばけばけたくん ばけくらべの巻』はこの菜園から生まれました。

海外旅行も好きなので英語の勉強は続けています。早く安心して旅行に行きたいです。

お好きな言葉を教えてください。

「初心」。なるべく初心を思い出して、物事を新鮮に感じたいと思っています。が、難しい!

ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。お便りなどで「子どもの目がキラキラします」「楽しい親子時間をありがとう」といった声を聞くと、ムクムクとやる気が出てきます。改めて絵本という媒体は子どもと大人の時間を同じ体験でつなぐことができるんだなと思います。子どもが一人で本を読めるようになる前の、ほんの少しの時期を共に過ごせたら嬉しいです。

岩田明子先生、ありがとうございました!