絵本作家インタビューたちもとみちこ

子どもを見ていると希望がわいてきます。
絵本は想像を豊かにする入口。
子どもたちには、いいものを見て、
いい体験をして育ってほしいですね。
少しでもそのお手伝いができたら
嬉しいです。
プロフィール

石川県生まれ。大阪芸術大学デザイン学科視覚情報デザインコース卒業。子ども向けの制作会社にて映像制作に携わる。2001年「子ども」のマルチメディアを企画制作するレーベル「colobockle」を立ち上げる。絵本をはじめ、教科書や辞典、子ども向け番組、児童書、園具など教育分野でのイラストレーションを多く手がける他、広告、CM、ポスター、パッケージ、キャラクターデザイン、プロダクト、テキスタイル、映像など想像力をかき立てる色彩豊かな作品で様々な分野で活躍。
近著に、こぶたちゃんしかけ絵本シリーズ「おてがみ」(教育画劇)、「しりとりのくにのおうさま」文/こすぎさなえ(PHP研究所)、はじめて王国シリーズ「ぜんだいみもんの いちごフェス」「どうぶつえんは いっしょくそくはつ」文/とうじょうさん(小学館)、布えほん「わくわく のりもの」「どうぶつさん こんにちは」「くだものさん いただきます」構成デザイン/La ZOO(交通新聞社)など。著書の絵本は、ヨーロッパやアジア諸国など世界でも翻訳されている。大阪芸術大学文芸学科・短期大学部デザイン美術学科准教授。趣味はいろんな場所の風景を楽しみながら、気軽に散歩すること。
絵本原画展
2022年2月5日(土)~3月30日(水)
これまでに出版された様々な絵本作品から約80点の複製画を展示いたします。






たちもとみちこ先生にインタビュー
絵本作家になられたきっかけは?
物心のついた頃から絵本作家になるのが夢でした。母が買ってくれた『世界の絵本シリーズ』が特に好きで、何度も読み返しては楽しんでいました。とは言え、中学高校と歳を重ねるうちに美容師になりたいな、服をつくるのも楽しそうだなと他の道も考えはじめていた頃に、偶然に図書館でモーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』に出会い、絵本作家への夢へ引き戻されたのです。読み終えた瞬間、なんてすばらしい絵本なんだろうと。やっぱり私は絵本作家になりたい、いつかこんなすばらしい絵本を描きたいと思い、本格的に絵の勉強を始めました。
その後、芸術大学へ進み、卒業後は上京し子ども向けの映像制作会社に就職しました。入社し3年程たった頃、ホームページ『colobockle』を立ち上げました。するとありがたいことにそこを通して、図書館のポスターや園具、幼児雑誌、子ども部屋の壁紙やカーテン、子ども服など様々な分野のイラストのお仕事をいただくようになりました。
その仕事を見てくださった出版社の方から「一枚の絵からストーリーを感じるので絵本を描いてみないか」とお話をいただき、絵本を描くようになりました。
画材は何を使っていらっしゃいますか?
これを知ると皆さんびっくりされるのですが実はパソコンを使って描いています。
映像制作会社で子ども向けのアニメーションをパソコンで制作していたのですが、その過程でアナログ素材とデジタルを融合し絵を描いたら面白いのではないかと思い制作を始めたところ、頭の中にあるイメージをより自由に表現することができました。色の表現の幅も広がり、素材も自由に変幻させることができるのです。
ただ、円や四角のツールを使うと、左右対称であったり、まっすぐな線や狂いのないきれいな円となり、温かみが感じられなくなるので、使いません。それと、最初の素材は全て手描きにしています。アクリルガッシュや水彩絵の具、色鉛筆やパステルなど様々な画材を使いテクスチャーを作り、スキャンします。形もペンタブレットだと上手に描け過ぎてしまうので、あえてマウスを使ってひとつひとつ形を作っています。マウスがはさみのような物ですね。それをパソコン上でコラージュしていくのです。丸や四角もマウスでひとつひとつ描きます。不自由さから歪な形になりますが、それが作風のひとつにもなりました。このように、デジタルとアナログのそれぞれの良いところを融合させて作品を仕上げています。
今回、原画を展示する絵本の制作秘話や思い出を教えてください。
「こぶたちゃんしかけえほんシリーズ」
2006年から2021年までに7作手がけさせていただきました。どれも子どもの身近なテーマやモチーフを題材に、ちょっとしたしかけを使って楽しく読んでもらえるようなアイデアを取り入れながら描いています。
例えば1作目の『おほしさま』、これは『あんたの夢をかなえたろか』という明石家さんまさんのお正月番組がありますよね。幼稚園で「どんな夢かなえてほしい?」ってインタビューをしている中で、女の子二人が「おほしさま、たべてみたいな。どんなあじがするんだろうね〜」と楽しそうに想像しながら話し合っていました。そのかわいらしいこと! そんな、子どものとびっきりかわいい!を描きたいなと思いました。
またこのシリーズでは、お友達といつも楽しい遊びやおいしいものを一緒に食べて「はぁ〜、たのしかった!おいしかったねー」ってころんと眠る、子どもたちの無邪気な日常を描いていきたいと思っています。親子で安心して楽しく読める絵本のシリーズにしていきたいです。
今まで手がけられた絵本の中で、一番印象深い絵本は?
小さな頃、道ばたで小鳥を拾いました。少し怪我をしていて縁側において兄と餌をとってきたり、お水をあげたりして育てていたのですが、数日経つ頃に、庭に親らしき鳥が飛んできて、ずっと縁側に向かってチュンチュンと鳴くのです。窓をそっと開けてあげると、小鳥は少しずつ飛んで親鳥に近づいていき、最後は一緒に飛び立っていきました。おかあさんがずっと探していてやっと見つけたのかな?ちょっと寂しく、でも、よかったなと思いました。このときの体験から想像を膨らませて描いた絵本が『ことりのゆうえんち』です。
絵本をお作りになるときのこだわりは?
絵本作家になるための勉強を続けていくうちに私は読者である「子ども」にたどり着きました。子どもって、いろんな可能性を感じる『人』ですよね。伝統的な枠を打ち破り、世界の新しい見方を提案する能力を持っていると思います。私は、そんな子どもの創造性に、大きな信頼と希望を抱いています。
子どもをテーマに取り組むことは、私にとって自由な発想を学ぶ原点となりました。そして、子どもたちからヒントを得て、想像を膨らませた作品を制作することで、子どもたちだけではなく大人にも違った発想や懐かしさの中にある新鮮さを感じてもらえたらいいなと思っています
絵本を通じてお伝えになりたいことは?
私は子どもを見ていると希望がわいてきます。そんな子どもたちにとって、絵本は想像を豊かにする入口ではないかと思います。私自身、小さい頃に素晴らしい絵本に出会えたことが、今の自分にも役立っていると実感しています。子どもたちには、いいものを見て、いい体験をして育ってほしいですね。自分のつくった作品で少しでもそのお手伝いができたら嬉しいです。
今後どのような絵本を描いてみたいですか?
出版社の方から「紙工作で」とか「シールで」とか「知育でこの判型で」「こんな季節テーマで」「何歳向けで、しかけを取り入れて」などテーマや仕様は様々ですがご相談いただいて、そこから自分の中に眠っていたアイデアが飛び出してくるのが毎回とても楽しみです。
制約がある中で想像を膨らませていく方が向いているのかもしれません。これからも、新たな自分を引き出しくださる出版社の方々とアイデアの発見を楽しみながら絵本を描いていきたいです。
ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
colobockleを立ち上げ20周年となりました。周囲の人たちに引っ張ってもらいながら迎えられたという気がしています。絶対に一人ではできなかったことですから。その結果、ずっと夢を見ていた絵本の仕事にすべてがつながっていることをとても嬉しく思います。
この展示会では現在までに手がけた絵本を厳選しながらもできる限り、たくさんの作品を見ていただけるよう展示していきたいと思っています。ぜひ、足をお運びいただけましたら幸いです。
たちもとみちこ先生、ありがとうございました!